地下街の弾痕

シネマ映画.comの「大映映画祭」でやってた(現在「大映映画祭」は終了)、森一生監督『地下街の弾痕』(1949年)を見る。なんでも「大映京都が国家警察大阪管区本部の協力を経て撮影された野心作」なんだそうで、今で言うところの大阪府警協力といったところか?

この映画が興味深いのは、ほぼ大阪を舞台にしているのに刑事たちが大阪弁を喋らないこと!

我々が想像するであろう大阪の刑事のイメージ、柄が悪くて、やくざと変われへん…みたいなイメージが微塵もなく、「そんなやつおらへんやろ~」と大木こだまさんよろしく呟きたくなるほどだが、よくよく考えたらこの物語自体も特に大阪を舞台にしなくても成立する話だし(もしかしたら海外の映画からのイタダキかもしれない)、そこは作ってる方も割り切っていたかもしれない。

リアルな大阪は言葉ではなく寧ろ風景の方にあって、戦後4年ぐらいしか経ってないなかで、これだけ復興を遂げているのかとチョット驚くほどの大阪の街並み(一部セットもあるとは思うが)が映し出される。その街中を二本柳寬や伊達三郎が歩いては聞き込みをしにいく、正に「捜査は足で稼ぐ」が実践される場面が出てくるのだが、そのときの人物をキャメラが横移動で捉えたり、普通の歩行者に混じって歩くのを捉えてみせるあたりなど、とてもいい。特に、二本柳寬が小さい子供と母親と思しき女性の間を割って入るように通ったのを、女性が「なに、この人? 失礼な!」とばかりに二本柳を睨みつけるのをキャメラがしっかり捉えていて、偶然だと思うがちょっとビックリした(演出だったらもっとビックリだが)。

物語自体は、非常に都合良く展開している印象も拭えないのだが(被害者の身元が判明するキッカケがあまりにも急転直下すぎて笑ってしまった)、例えば連行された菅井一郎を志村喬が取り調べ、嘘がばれて菅井の態度がどんどん変化していくあたりの芝居であったり、その嘘を立証するため部下の刑事たちが動いていく様のさりげなさであったり、また中盤と終盤に登場する人物の動きと編集とが的確かつ絶妙な大捕物の場面であったり、リアルとは違うところでの「映画」としての面白さが詰まっていて、最後まで楽しく見ることが出来た。